Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ


   
BMP7314.gif 君へのエターナル BMP7314.gif 〜船長誕生日記念
 




 長い距離、それも海上をゆく旅路で人が一番困るのは、土に育つ野菜や果物を摂取出来ないことだったそうで。備蓄の利く一般的な食料と真水は、何と言っても判りやすいほど“無くては困るもの”だったから、逆に言えば忘れるような不備もそうそうないものだが、新鮮でなきゃ意味がない野菜は、積めたとしてもイモやニンジンといった根菜類がせいぜい。航海の途中で食料が尽きたとしても、まま、魚でも釣っていれば次の寄港地までは何とかしのげようなんて考えが通じた頃ならいざ知らず、造船の技術革新と航海術に於ける羅針盤の発明などなどという創意工夫の積み重ねの末、航行出来る距離がどんどんと伸び、そうともなれば、備蓄計画も綿密に計画されるようになった…筈なのに。筋骨頼もしい、熟練な筈の船乗りたちが原因不明の病に遭い、バッタバッタと倒れてしまうようになった。全員が一斉にというのなら伝染病かもという恐れもあったが、そんなことではなく。食料だって水にだって不足はなくとも、倒れる者は倒れたので、何が何やらと当時の人々はそりゃあ慌てもしたらしいが、少ししてやっと突き止めることが出来た原因というのが、ビタミン不足による“壊血病”という代物で。日頃からちゃんと野菜好きで食べていれば、体内の酵素も足りているので寄り付きもしない病だが、肉だ魚だ、酒だ酒…なんてな偏った食生活を送っている不届き者が、日頃以上に野菜を摂
れなくなる海なんかに出たりすりゃあ、覿面、鼻血が止まらないわ、怪我の治りも悪いわ、果ては抵抗力が下がってちょっとした風邪くらいで生死の境をさまようような、そんな状態にもなってしまうそうだから、

 「だからってことからナミさんに買っていただいた、
  ありがたい大型冷蔵庫だってのに、
  お前は何でまた、そうも頻繁にばったんばったん開けやがるのかな。」

 気密式になってる庫内の温度を、それじゃあ保てねぇだろうがよと。つまみ食いにやって来た麦ワラの船長へ、たちまち眉を吊り上げてしまったのも無理はなく。それでも今日は優しい方で、尻を狙って蹴り出す代わり、作り置きのクッキーを船長さんご本人の頭と同じほどの袋にパンパンに詰めて、差し出して下さったシェフ殿。
「おやつの時間にゃ呼んでやるから、それ食って大人しくしてな。」
「は〜い。」
 結構広い筈のキッチンが、今日は朝から何やかやを広げまくりの修羅場状態。いくら手際がいいサンジでも、今日の晩餐ばっかりは…作る料理の種類と量がとんでもないがため。下ごしらえ段階のあれやこれやが冷蔵庫や貯蔵庫にも収まり切らなくて。それらが広げられたままのキッチンキャビンにて、既に半日は孤立無援の戦いの真っ最中なシェフ殿であり、
「あの忙しさの合間に朝とお昼の食事まで、クオリティは落とさずにフォロー出来てるなんて、とんでもない人よね。」
 しかも、今のやり取りから察しておやつも供するつもりでいらっしゃる模様であり、
「まあ、サンジくんにしてみれば、戦闘以上に自分の誇りの関わるジャンルでしょうからね。」
 キッチンキャビンの屋根の上。つややかで張りのある緑の葉っぱがすくすくと成長中の、みかんの鉢のその向こうの後甲板にて。こちらさんも忙しそうに、毎年恒例オリジナルシャツの縫製に勤しんでいる女性陣。洒落っ気がない上に乱暴者だから、放っておけばあっと言う間に着替えのなくなる人たちが何人かいる中、一番そういうことへ無頓着な船長さんなのでと、ゴムゴムの技に支障の出ない袖なしシャツを何枚も進呈するのが、いつの間にかの恒例になっており。
「随分と丈夫な生地で作っていたのね。」
「まぁね。」
 いくら“悪魔の実”の効果で打撃系の技は効かないなんて言ってても、全然まるきり堪えないって筈はない。肌への生傷だって絶えない困った船長さんへの、少しでもガードになればと思ってのこと。丈夫で さりとてごわつき過ぎない、そんな生地を見つけといては、この日のためにとこっそり準備しておいたナミさんであり。
「しかも、あれでも一応は成長期だもんだから、日々の作りおきってのが出来なくて。」
「あら。それじゃあ背丈とか肩幅とか、ずんずんと伸びているの?」
 それにしては、顔立ちも均整もそうは見えない幼いままだけれどと感じたからだろう。縫い目から顔を上げ、意外そうなお顔をした黒髪の考古学者さんへ、
「…ほんのちょこっとだけね。」
 布から浮かせた左手で、その指先に何か小さなものでも摘まむような仕草をして見せ、航海士嬢が悪戯っぽく笑って舌を出す。
「無駄になったら困るからって、毎年ぎりぎりまで作業しないんだけど。あんまり意味はないのかも。」
 そうかといって…こればっかりは、去年は大丈夫だったから今年も同じだろうとは行かないことだしねぇと。肩をすくめた彼女へ、あらまあとロビンが擽ったそうに、柔らかく笑ってしまう。そんな彼女らのところへと届いたのが、主甲板に降りてったらしい当のルフィの気配と、そこにいた面々との会話のお声。
「あ、ダメだぞ、ルフィ。ゾロは午後いっぱい、俺とウソップの作業の助っ人だぞ?」
「え〜〜〜?」
「ゾロがちゃっちゃと手際よく働いてくれたなら、とっとと解放してやっから、それまでまあ待ってな。」
「………うぉいっ。」
 ウソップの、どこか上からの言い回しへだろう、怒ったような低い声を出した剣豪だったが、今日の段取り、前々からの約束だったのか、振り切ることも出来ないらしく。む〜んなんて判りやすくも唸りながら、意のままにならぬことを少々膨れていた船長さんも、
「…ま、しょうがねぇか。」
 今日ばっかりは我を張って駄々を捏ねるという方向へと向かわなかったのは、皆が忙しい理由をよくよく知っていたからで。

  『誕生日ってのは、案外と我慢を一杯しなきゃいけない日なんだな。』

 去年、そんな絶妙な言いようをしていたルフィだったという話をしたところ、ロビンには大ウケだった。そう、今日は我らが船長さんのお誕生日だからね。クルーたちはそれを盛大にお祝いする宴の準備に余念がない模様。何せ小さくて狭い船だけに、隠してこそこそなんていうサプライズものになんて出来ようもなく。よって、船上で当日を迎える運びとなる場合はいつも、前以て晩餐を兼ねた宴を開く旨を祝ってもらう側の御当人へも伝えておき、お前こそが主賓だから手伝わなくても良いけれど、構ってやれないのも船上が慌ただしくなるのも勘弁なと。そういう順番の明けっ広げな騒ぎと催しになるのも恒例のこと。
「さあ、あとちょっとだ。頑張ろうっとvv」
 それは楽しそうに自分へとエールを送ってたりするナミなのを見やって。日頃は、男どもの起こす下らない騒動へ呆れたようなお顔ばかり見せている航海士さんも、実のところはお祭りが大好きだったらしいわねと、考古学者のお姉様が微笑んだ、初夏の陽気が心地よい海の上でありました。


  ………で、終わっていれば、
       他愛ない“お誕生日の風景”なんてなスケッチで済んだのですが。






            ◇



「見張り台に登ってったからってウソップが見に行ったけどいないんだ。」
 船倉にも何処にもいないし…と、チョッパーがうろたえている。皆さんがそれぞれに今宵の宴を目指してそれぞれのお仕事へ精を出してた午後だったのだが、ここいらで小休止に致しましょうと、お茶の準備を整えてシェフ殿がかけた声に応じた頭数が…数えてみるまでもなく一人ほど足りず。先にも言ったように狭い船だ、大声で呼ばわっても反応がないとなると、さては居眠りでもしてやがるのかな。今日はあんまり構ってやってねぇから、そっかに隠れて拗ねてるのかな。最初はそんな雰囲気でいたのだけれど、船のどこからもルフィの匂いがしないと、居た形跡の匂いしかしないなんて変だと、チョッパーが妙に落ち着かなくなってしまい、
「後甲板は? 探してみた?」
 自分たちがいたからそれもあって、彼女らへ“見なかったか?”と訊いた彼なのならば、途中からはボタンつけだの細かい作業になって来たため、それらが潮風に飛ばされないよう、船室へ引っ込んでた女性陣たちであったので、
「あたしたちと入れ違いに来ていたら気がつかないわ。」
「そだな。」
 たたた…っと駆け出しかかったトナカイさんだったが、見張り台からすべり降りて来たウソップが、
「いんや。甲板の上には何処にも姿がねぇ。」
 上からグルリと見回したのだろう、小さな背中を引き留めがてらにそんなダメを押す。
「でもっ、樽の陰とか鉢植えの隙間とかにいるなら見えなかったかも。」
「あのな。いくらちっちゃくても、コオロギじゃねぇんだから。」
 ちっとは落ち着けと、狙撃手さんが宥める傍から、
「…そうね、おかしい。この匂いに誘われて出て来ないなんて。」
 彼らが囲む、晩餐用にと突貫で作ったテーブルの上には、焼きたてのシェフ殿謹製チーズケーキ、サワークリーム添え。芳しい香りが立ちのぼっており、甘党だったらどんなに腹一杯でも気になって、まずは間違いなく見にくらい来るほどの上出来な代物だ。
「…まさか海に落ちたのかなぁ。」
 何たって“悪魔の実の能力者”だから、落ちたら最後、自力では上がって来れない。声も出ぬまま沈むばかり…とあって。さっきからそれを憂慮していたものを、不安そうに口にした船医さんへは、
「そんな物音がしたら、気がつくでしょうよ。」
 誰がとは言わないままながら、とっくに船端に寄ってた誰かさんへと聞こえるように言ってやり、
「とりあえず速力を落としましょう。ホントに落ちたのならその現場からこれ以上離れないよう、停船させなきゃならないし。」
 だから、ここいらへ闇雲に潜ってしまわぬようにと、立てた人差し指をぶんぶんと顔の前にて振ってやり、緑頭の保護者へクギを刺していたナミの傍らから ついと離れて、

  「無くなっているのは船長さんだけ?」

 ロビンさんが唐突なことを訊いたので。はい? 皆がキョトンとしたのへ、
「確か、ボートを曳航してなかったかしら。」
 剣豪やナミさんが居たのとは反対側の船端に寄った彼女が見下ろした海の上、そこには何の影も無いけれど、
「…あ、そういえば。」
「ワインの樽を冷やす“浮き”代わりにしてたんだっけ?」
 乱暴な手際だったが、冷蔵庫が塞がっていたし、今夜開けると判ってたのだからと。樽の気密性をあてにして手っ取り早い方法をと、船の陰になってた辺りへドボンと、底には重しをつけ、同じロープの逆側をボートにくくってという大胆な方法で海に浸してた彼らであり。いくら喰いしん坊でも酒は狙うまいと、さして警戒もしないままで放っておいたのだが…。
「…ありませんか?」
「ええ。」
 海を覗き込んでたお姉様が、それは清々しくもにっこりと微笑んで下さったのへ。ありゃりゃあと額を押さえたのがシェフ殿ならば、どしよどしよと再び落ち着かなくなったのが船医さんで。
「これからは奴が近づきそうなとこには海楼石でも撒いときましょうかねぇ。」
 いや、ネコ除けのペットボトルじゃないんだから。
(笑) こっそり近づいたそのまま、逃げられなくなるのはいいとして、発見が遅れたらえらいことになりませんか、それ?
「そんなことよりっ!」
 早く探さなきゃあと、チョッパーが甲板に両足突っ張っての仁王立ちとなって、力説しかかったのとほぼ同時、
「………あ。」
 誰が制めても間に合わなかったろう思い切りのよさにて、ザバンと飛び込んだ水音がした。船端には3本の和刀が立て掛けられてあり、
「…ゾロ、今日は午後から帆も舵もいじってないから。この船に背中を向けたまま、真っ直ぐ泳げば着けると思うわ。」
 ちょっぴり頭痛がしそうなお顔になって、それでもアドバイスを放ってやったナミさんへ、結構な高さの船端から飛び込んだまんま、今やっと海面へ頭を出した剣士さんが、ああと短く応じて泳ぎ始めた。雄々しい腕が肩が躍動し、悠々と水を切って泳いでゆく様はなかなかに勇壮だったが、
「…構わないの?」
 さすがにこれはと、わずかに案じるような顔になったロビンだったのは、まだルフィが何処に居るとまで断定出来ていないその上、
「彼、素敵なほど我が道を行く人じゃなかったっけ。」
 言葉を選んだつもりなら、拍手の一つもしましょうかと、乾いた笑い方をしたナミさんが、
「ええ、極めつけの方向音痴よ。」
 そうと応じて、だが…それから、
「でもまあ、大丈夫だから。」
 そんな楽観的な言いようを続ける彼女でもあって。

  “???”

 さっきは無謀な真似は止めときなさいと制した彼女では無かったか? 気がつくと、他の面子たちも、あれほどおたついていたチョッパーまでもが、どこか微妙な苦笑をしているばかりで、一気に…さっきまでの逼迫した空気が払拭されている。
「一応の保険に、方向と距離の確認くらいはしておきましょうか。」
 こっちの方向に間違いはないと思うのだけれどと、顔を向けてその視線で示した航海士さんであり、
「確かめてもらえる?」
「え? ああ。ええ、やってみるわ。」
 それくらいならお易い御用と、優美なフォームで胸の前に交差された腕。眸を伏せての集中に入ったロビンは、海面すれすれを撫でるように吹き渡る潮風のように、それは素早く意識を走らせる。途中で頑張って泳いでいる剣士さんの頭上を通り過ぎ、もっともっととその意識を遠くへと飛翔させている彼女であり、
「………。」
 あまりにも果てしなく遠いと探査するのも無理なのだろうが、そこまでの心配は要らなかったか、
「………あ。」
 瞳は閉じたまま、それでも、何かを見つけたらしい。
「いた。ここからだと、水平線すれすれってトコかしら。」
 漂流中のボートを見つけ、その船端へサーチアイを咲かせた彼女であるらしく、
「船長さんは無事よ。というか、居眠りの真っ最中だから、随分離れてしまったことにさえ、気づいていないのかもしれないわね。」
 やっとのこと、彼女もまた平生の落ち着きを取り戻しての笑顔を見せて。
「あんの馬鹿…。」
 お行儀悪くも舌打ちしかねないくらいに、目元を眇めた航海士嬢なのへくすくす笑い、
「あ…起きた? 聞こえてる? 船長さん。」
 こちらの面々へも聞かせたくてのことか、わざわざ声を出しての交信を始めるロビンであり、
《…あで〜? なんでロビンの声がするんだ? つか、メリー号はいつの間に何処へ潜ってんだ?》
 電伝虫じゃあないので、ルフィの側の言いようがリアルに伝えられないのは残念ねと苦笑をしつつ、
「メリー号が何処かへ潜ったんじゃあないの。あなたの乗ったボートが置き去りになっちゃったのよ?」
《え〜〜〜っ、そうなのか?》
 帽子を頭に押さえつつガバチョと身を起こし、辺りをぶんぶんと首を回して見回す…という、何とも判り易いリアクションを見せたルフィだったらしくって。それへとクスクスと笑いながら、
「安心してじっとしてなさい。今さっき剣士さんが迎えにって海へ飛び込んだから。」
 続けたロビンだったのへ、

  「………もっと手っ取り早く回収出来ないかしら。」

 ナミさんが、ぽつりと呟いていたりする。
「あら? 何か良い方法があるの?」
「だって、あいつにはゴムゴムの技だってあるのよ?」
 ロビンの探査能力よりも効果範囲は落ちるのかもしれないけれど、それでも…これまでにだって結構な距離を、飛んだり伸びたりしてもいる。
「狙いを定めて、一気にこっちへ飛んで来れなくもないんじゃないのかしら。」
「でも、その“狙い”をどうやってつけさせるの?」
 そうだぞ? 方向が少しでもぶれたら海に落ちちゃうぞ? 肝心な回収係のゾロはボートに向けてを泳いでる最中だから、とんでもないところへ向けて突っ込んで来た揚げ句に海へと落ちたら、とてもじゃないけど拾いにもいけないし…と、これはチョッパーからのご意見で。
「む〜ん、そっか。じゃあ、ゾロが向こうへ着くのを待つしかないか。」
 やれやれだわねぇと、ひとしきりの溜息…というか、鼻息をふんっとついて見せるナミだったが、こういう斟酌のない態度を取るのはそれだけ勢いよく安心した証し。やっぱりどの子もかわいらしいことと苦笑してから、さて。

  「ところで。」

 考古学者のお姉様が、あらためての声をかける。
「どうして剣士さんが泳いで迎えに行くのを誰も制
めないでいたの?」
「ああ、それねvv
 くどいようだが、彼の…超絶なまでのレベルを振り切って久しい方向音痴っぷりは、もはや海軍の海兵たちまでが知っているほどに、隠しようのないくらい有名なことであるらしく。(参照;アラバスタ編アルバーナ最終決戦)ウォーター・セブンでの“ガレーラ・カンパニー襲撃事件”の折には、ナミやチョッパーと一団となって一緒に駆け出した端から、いきなり迷子になりかかっていたのも記憶に新しい。
(笑) ただでさえそんなな彼が、道どころか何の標識も目印もない海を泳いで何処かへ向かうなんてことが、果たして出来ようものだろか。彼らの結束は素朴ながらもなかなかに美しく。それぞれの得意分野へは途轍もなく大変なことを任せ切ることが出来るその代わり、普通一般的には満たされているべき何かがぼこぉっと抜けてる仲間たちへ。しっかりしろよと呆れつつも、そりゃあ純粋に手を貸してやってたのをよくよく知っているだけに…この対応が不思議でしょうがないロビンなんだろなと。そっちへもやっぱり理解を寄せつつ、
「だって…ねぇ?」
「う〜っと…。////////
 クスクススvvとやっぱり笑ってみたり、いっそ困っているかのように唸ってみたり、そんなお顔になってしまった皆さんだったが、

  「…って、あ〜〜〜〜っ!!」

 いきなり叫んだナミへ、
「な、ななななんだよ、どした。」
「ナミさん?」
 チョッパーが飛び上がり、サンジとウソップが後ずさり。
「いっけないっ。あの馬鹿ってば、どうやって戻って来るつもりなのよう。」

  「「「………あ。」」」

 こんな短いやり取りだけで意が通じている彼らを前に、
「???」
 やはりやはり、キョトンとなさるお姉様だったのでございます。(…白々しいですかね。)




 さてとて。助けが来ると聞かされたからか、ボートの上にて伸び伸びと横になってた船長さん。目映い陽を避けるように、麦ワラ帽子をお顔に伏せて、さっきもこれを聴いてていい気持ちになってしまった、ボートを揺らす細波の音を一枚板のすぐ下に聞きながら、ぼ〜んやりとしていれば。
“………お。”
 遠いところからの単調な波の音に別な波音が重なって。少しずつ何かが近づいて来る気配が拾えた。ざっぱざっぱと力強いストロークには存在感があったから、音もなく忍び寄る鮫や海王類の泳ぎじゃあない。
「やっと来たか。」
 起き上がって帽子をかぶり直せば、海の青に紛れそうな緑頭が小さく見えて。
「お〜い、ぞろ〜〜〜vv
 こっちだこっちだと、お呑気にも両手を振って見せる“ゴール様”に向けて、
「………。」
 言いたいことは山ほどありそうながらも、今は黙々と泳ぎ続ける剣豪であり…、

  「ここまで無事に来れたんだから、詰めを誤るなよ〜〜〜。」
  「お前に言われる筋合いはないわいっ!」

 まったくである。
(苦笑) どんなに沈着冷静な人物であってもそうは見えなくなってしまうのが、彼との付き合いを始めてしまった身の不幸。怒鳴ったことで緊迫の糸も切れたのか、はぁあと肩を落としたのを色んな意味でのインターバルの代わりにし、
「そっちこそ、随分と落ち着いてるじゃねぇかよ。」
 声をかければ、さっきロビンがな、ゾロが迎えに行ってるって教えてくれたんだよん、と。船端へ頬杖ついて楽しそうに笑ってるお呑気者へ、そうかいそうかいと目許を眇める。自分への信頼があっての余裕とは到底思えなかったからであり、
“…日頃からも、しょむないことへほど慌てるくせして、こういうことへはたじろがない奴だったけどよ。”
 誰かが必ず心配して探してくれるに違いないと思ってた? そんな甘さや自惚れがあるよな奴だったとは、これまでの経緯から思うに意外すぎて違和感がいっぱい。キャプテンでありながら、土壇場の行動は究極の“マイペース”な御仁であり、他のクルーたちを信用しているからこその、後顧の憂いなし的全力投球が得意技という、結構無責任かもなリーダー様でもあり。
“こいつにしてみりゃ、このっくらいの迷子は他愛ないことって範疇なのかもな。”
 強いて言えばそういうことかも。人の気も知らないでと、こっちのパニックとの温度差を噛み締めながら。あとちょっとを詰めるように、小さなボートへと泳ぎ寄る。おら退けと船長さんを脇へと寄らせてから、懸垂の力のみにて上へと乗り込み、
「じゃあ。俺が来る意味はなかったってか?」
 拾い上げに来たというよりも、自分が落ち着けなくって飛んで来ただけという感のある行動を取っただけの彼であり。だって今頃になって気がついたのだが、何にも持って来なかった救助隊。漕ぎ手として働くにしたって、ただでさえ方向音痴の彼だのに、ここから船までどうやって戻るというのかと。そこはさすがに気づいたらしいゾロへと、
「いや、そんなことはないぞ。」
 その大きな肩を指さして見せる船長さん。はい?と窮屈そうに顎を引きつつ自分でも見やったゾロが、
「………あ。」
 そこへと引っかけられてあった釣り針に気づき、その先の糸にも気がついて…。





            ◇



 どうしようもない方向音痴の剣豪さんは、だってのに唯一見失わない方向というのがあって。その頑迷なまでに堅い意志が築いた野望への道…は精神のお話だから置くとして、
「どういう奇跡か、それとも単に現金なだけなのか。ルフィを探してるときだけは、あいつ、とんでもない迷子になったことが一度もないのよねぇ。」
 スカイピアで大蛇のお腹にいた時だって、考えようによってはそれと気づかぬうちにも引き寄せられてたってことになるほど、狙い違わず間近にまで駆けつけられてた剣士さんであり、
「そうだったの。」
 可笑しいと笑うより、脱力し切って呆れているらしいロビンさんが、その剣豪さんが飛び込んだおり、制止は出来なかったがせめてこのくらいはと素早く肩口へ留め置いたのが。船端に置きっ放しにされていた、釣り道具の中にあった糸つき釣り針であり。全部が持って行かれる前にとロープをつないで、これでまま道標の代わりにはなることだろう。迷子にならないようにと打った手がそのまま、ルフィへの助けにもなりそうで。これにて一件落着かしらと苦笑混じりに肩をすくめている女性陣の頭上の見張り台では、
「おうおう、漕いでる漕いでる。」
 ウソップとチョッパーが、双眼鏡で彼らの帰還を確かめている真っ最中。
「どのくらいで戻れそうだ?」
 見せて見せてとねだられて、大降りの双眼鏡を手渡した狙撃手さんの見解は、
「ん〜〜〜。適当に近づいたら、ルフィのこったから、ゴムゴムのロケットで飛び込んで来るんじゃね?」
 何せ前例は山ほどあるから。乱暴だけれどそれもありかもな〜と、呑気に相槌を打ってたチョッパーが、はっと思い当たったのが、
「あっ! だったら甲板とかテーブルの飾り付け、どっかに避難させとかないとお釈迦にされっちまうぞ。」
「あわわ〜〜〜っ。」
 恐ろしいことへと気がついたのと、遠い遠い海上からの

  「ゴムゴムの〜〜〜っ!」

 そんな雄叫びが聞こえて来たのがほぼ同時。
「わ〜〜〜っ、待て待てっ!」
 聞こえるはずはないながらも怒鳴りつつ、大きく手を振って止めにかかったウソップやチョッパーのパニックぶりと。
「サンジくん、キッチンからはまだ出て来ないで〜〜〜っ!」
 というナミさんの悲鳴とが飛び交った直後、阿鼻叫喚の船上と化した模様までは、筆者の稚拙な描写力では到底書き表せませんので…。



  
HAPPY BIRTHDAY!  TO LUFFY!!




   〜 どさくさ・どっとはらい
(おいおい) 〜  06.5.24.〜5.25.


  *今更なネタでお茶を濁す奴ですいません。
(苦笑)
   こういう相性…というか、関係にあるってことも、
   もしかしたらロビンちゃんは知らないかもなと思いまして。
   ああでも、エヌエスロビーで
   どんな格好の“分断作戦”を繰り広げてる彼らなのかを知らないので、
   (まさかのっけに、あんなカッコで船長が先行行動を取ろうとは…)
   そこではもしかして完全に見失っていたりして?
   だとしたらばこれほど間抜けな話はないので、
   先に謝っとこう、すいません。
(う〜ん)

  *それにしても、
   ウチのゾロルは“ルフィがゾロを振り回す話”が断然多くて、
   今頃言うのもナンですが、
   カッコいいゾロをお求めの方には非常に不愉快かも知れませぬ。
   最近では、ケ○ロ軍曹とギロ○伍長のやりとりが、
   重なってしょうがなくって…いやはや、げほごほ………。
(苦笑)  

ご感想はこちらへvv**

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